撮影日記


2016年04月01日(金) 天気:曇

もうすぐ満開だからTC-16ASを使いたくなった

ニコンの一眼レフカメラ用のレンズマウントは,1959年にニコンFが発売されたとき以来,その形状が変更されていない。マウント形状が変わらないので,古いボディにあたらしいレンズを装着したり,逆にあたらしいボディに古いレンズを装着したりすることが可能になる。実際には,絞りの情報を伝達するしくみなどが改良されつづけてきたため,ボディとレンズとの組みあわせによっては,機能や性能をじゅうぶんに利用できない場合もある。また,そもそも装着ができない組みあわせも生じてきた。
 一眼レフカメラを発売してきた日本のメーカーとしては,ニコンのほかにはキヤノンやペンタックス,ミノルタやオリンパスといったあたりが代表的なものになる。一眼レフカメラの発売以後,マウントの形状を変えてこなかったのは,これらのうちではニコンだけである。ペンタックスは開放測光やAE機能の実現の過程において,ネジこみ式のマウントからバヨネット式のマウントに変更した。ネジこみ式マウントの時代にも変更されたことがあり,初期のアサヒフレックス用のネジこみマウントは,より径の小さなものだった。オリンパスがさいしょに発売した一眼レフカメラは,ハーフサイズのものだった。のちに,ライカ判の一眼レフカメラを発売するにあたって,より径の大きなマウントに変更した。そしてキヤノンやミノルタは,一眼レフカメラをオートフォーカス化するときに,マウントを変更した。
 一眼レフカメラをオートフォーカス化するときにも,ニコンはマウントの形状を変更しなかった。あたらしく発売されたオートフォーカス用のレンズは,それ以前のマニュアルフォーカス用のボディでも使えるように配慮されていた。あたらしく発売されたオートフォーカス用のボディでは,それ以前のマニュアルフォーカス用のレンズも使えるように配慮されていた。ただし,ボディもレンズもどちらもオートフォーカス用のものでなければ,オートフォーカスでの撮影はできない。ニコンは,オートフォーカス一眼レフカメラF-501AFを発売したときに,マニュアルフォーカス用のレンズをオートフォーカス用レンズに変身させるアダプタをあわせて発売した。それが,AF Teleconverter TC-16ASである(2008年4月25日の日記を参照)。

マニュアルフォーカス用のAiニッコールレンズにTC-16ASを取りつけて組みあわせると,オートフォーカス用レンズとして使えるようになる。TC-16ASに取りつけるレンズ(ここではこれをマスターレンズとよぶ)を無限遠の位置にしておけば,TC-16ASのレンズ群が移動することでピントをあわせてくれる。ただしあくまでもテレコンバータなので,焦点距離も伸び,レンズの明るさも暗くなる。TC-16ASの場合,焦点距離は約1.6倍になり,明るさは約1.3段暗くなる。F-501AFと同時に発売されたオートフォーカス用レンズは,50mm F1.8,35-70mm F3.3-4.5,70-210mm F4の3本とTC-16ASだけであったが,TC-16ASによって多くのマニュアルフォーカス用レンズがオートフォーカス撮影用に使えるようになったので,超広角域を除けば一通りの交換レンズがそろったということができた。
 ただ,交換レンズとくに望遠ズームレンズのラインアップがそろってくると,しだいにTC-16ASの存在価値は薄れていく。TC-16ASでオートフォーカス撮影のできるボディも,F-501AFのほかには,F-801,F90,F90X,F4,F5,F6と,ごくかぎられたものにすぎない。ディジタル一眼レフカメラでも,TC-16ASでオートフォーカス撮影ができるのは,FUJIX DS-505AやKodak DCS460など,やはりかぎられたものになる。
 焦点距離や明るさのことを考えれば,オートフォーカス用レンズのラインアップがそろった今では,マニュアルフォーカスレンズとTC-16ASとを組みあわせて使うメリットはあまりない。一方で,TC-16ASを使うときには別の効果も期待できる。それは,少しだけ接写がやりやすくなることだ。マスターレンズを無限遠の位置にしておくのがTC-16ASの基本的な使い方であるが,無限遠ではなく最短撮影距離の位置にしておけば,マスターレンズの最短撮影距離よりもさらに近接した被写体にピントがあうことになる。ただしこのときの画質は,保証されていない。

花を撮るときには,その「もうちょっとだけ寄りたい」という効果が,有利にはたらくことがある。そのようなときは周囲をぼかしたいことが多いので,周辺の画質の多少の低下は影響が少ないと考えてよいだろう。
 サクラはほぼ満開になったが,空は曇っている。背景が青空ではないので,サクラの全景を撮るよりも,近接したほうが撮りやすい。等倍に近い撮影をしたいわけでもないので,TC-16ASを使った撮影をしたくなった。

Kodak DCS460, Ai NIKKOR 50mm F1.4, TC-16AS

「楠木の大雁木」のサクラも,満開に近くなってきた。花には,雨のしずくが残っている。

Kodak DCS460, Ai NIKKOR 50mm F1.4, TC-16AS

水滴がどまんなかの「日の丸」っぽい構図になってしまったが,全体をややハイキーとすることで,やさしくかすんだ春の空気が表現できた,と思っている。

Kodak DCS460, Ai NIKKOR 50mm F1.4, TC-16AS

雁木とは,川へ降りていく石段のことをさす。「楠木の大雁木」は広島市内の川に残る雁木のうち,もっとも大規模なものの1つだ。かつては,舟運の荷揚げ場としても使われていたとのことである。
 多くの花が,雁木に覆いかぶさるように咲いている。
 横から見れば,ぐるぐる渦巻いているサクラのトンネルに吸いこまれそうだ。

Kodak DCS460, Ai NIKKOR 50mm F1.4, TC-16AS

見ごろを迎えたサクラを楽しもうとする人は,川からもやってくる。この小型ボートは,「雁木タクシー」というものだ。日常の「足」として使うのは,まだ容易ではないようだが,観光等で広島を訪れたときには利用してみると非日常が楽しめることだろう(2015年3月21日の日記を参照)。

Kodak DCS460, Ai NIKKOR 50mm F1.4, TC-16AS

50mm F1.4レンズとTC-16ASとを組みあわせて使うならば,85mm F1.8クラスのレンズを使ったほうがボケなどが美しく表現できたかもしれないが,TC-16ASで撮った結果も悪いものじゃない。(無改造の)TC-16ASをオートフォーカスで使えるディジタル一眼レフカメラが少ないことは,残念である。


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